戦争や気候変動、食糧問題、経済不安など、今や世界はかつてないほどの緊張感に包まれています。
そんな危機的状況の中、生協は、私たちは、何を考えどう行動するべきなのか。平和・環境をテーマにした作品も数多く発表する児童文学作家の今関信子さんと、コープしがの白石理事長が対談しました。
白石 今関さんの書籍のテーマは「命の大切さ」や「平和の尊さ」ですよね。そういったテーマを投げかけるきっかけは何だったのですか?
今関 私の肩書きは児童文学作家ですが、もともとは幼稚園の教員でした。ちょっと目配りするだけで、地域や学校で課題を抱える子どもたちが見えてくるものですが、当時、大津市の児童養護施設「湘南学園」の園長だった中澤弘幸さんと知り合い、施設に泊まったことがありました。子どもたちが部屋で身を寄せ合っているのが印象的で、朝起きたらね、子どもたちは目ヤニがいっぱいで。驚いて先生に聞くと「昼間はみんな明るいけれど、夜は膝を抱えて泣くんだ」って。私、それを聞いて福祉から離れられなくなりました。
白石 湘南学園では理事もされていましたね。なぜ本を書こうと思ったのですか?
今関 私が小学生だった当時は作文教育が盛んで、毎日のように日記や作文を書かされました。おそらく日々の生活の中で何が楽しくて何が嫌なのかを子どもたちに知ってもらうのがねらいだったのでしょう。そこでよく文章をほめられたんです。みんなが見ていないところを見つけて、ほじくりだすのが得意でしたので(笑)。
白石 実は今日、ちょっとしたプレゼントを持ってきたんです。「鍋敷き」なんですが、甲賀市に「コープの森あぶらひ」という森林がありまして、コープしがの設立30周年を記念してその間伐材で作られたものです。ご存じの通り、生協は組合員に育てていただいている組織ですから、組合員の生活基盤や財産を守るためにも社会的課題には向き合わなければなりません。コープの森の活動もその一環で、びわ湖の水源である森林を守る目的でスタートしました。
ほかにも助成金で市民活動を応援する「できるコトづくり制度」という取り組みもしています。学校に行きづらい子どもたちや支援を必要とする高齢者など、地域にはさまざまな課題が山積みになっています。そこに気づいた人たちが、「何かやってみよう」と考えた時にコープしがの助成金を活用していただき、活動を応援する取り組みです。
生協は暮らしを豊かにする商品を提供するだけでなく、みなさんの平和や命を守る役割も担っています。これまでもこれからも、その考えは息づいていくと思います。
今関 私も組合員として長年生協を利用してきましたが、地域の市民活動に生協が関わることにすごくびっくりしました。
白石 そうですね。過去にはびわ湖の水質改善をめざした「せっけん運動」や「抱きしめてBIWAKO 」といったプロジェクトにも関わりがありましたね。
今関 生活者の目線で切り込んでいって、社会や行政を動かす力が生協にはある。私は利用者として生協を見ながら、そんな底力を感じていましたよ。
白石 今関さんが生活者として、今感じていらっしゃる社会的課題はありますか?
今関 やっぱり私は戦争が一番怖い。私が知らない時代の戦争の足音がまた少しずつ近づいてきているのを感じます。去年8月に出版した私の新刊『アメリカから来た友情人形』でも、文化の違いを乗り越えてお互いを尊重し、丁寧に繋がりを築き上げてきた人たちの姿を描いています。
白石 どんな物語ですか?
今関 これは1927年に日米友好の証としてアメリカから贈られた1万2739体のお人形のお話です。そのうち滋賀県には135体の友情人形が届きましたが、今ではたった4体しか残されていません。贈り主はアメリカ人宣教師のシドニー・ギューリックさん。長年日本で暮らした後に帰国すると、「日本人移民がアメリカ人の仕事を奪う」として排斥運動の真っ最中。心を痛めたギューリックさんは当時の大統領にも掛け合いましたが、排日移民法が成立してしまいます。そこで彼は「子どもの頃からお互いを知ることで差別や偏見をなくせれば」と子どもたちに呼びかけ、彼らがお金を出し合って購入した人形を日本へ贈ることを決意します。しかし、太平洋戦争が勃発すると、アメリカからの友情人形は「敵国のスパイだ」としてほとんどが無残に壊されます。では、どうして滋賀県に4体のお人形が残されたのか……というお話です。
元気鶏若鶏モモ肉(マルイ食品)
抗生物質や合成抗菌剤に頼らない、鹿児島育ちの「南国元気鶏」。今関さんは「生協の鶏肉はドリップが出にくい」とお気に入り。
白石 去年の広島の平和宣言で子ども代表が言っていましたね。「一人ひとりが相手の話をよく聞くこと。違いを良さと捉え、自分の考えを見直すこと」と。まさしくその通りだと思います。今年は原爆投下から80年の節目であり、国連が定めた国際協同組合年にも当たります。利益を優先するよりも、協同して価値を見出していく。そういった協同組合の活動がさまざまな危機に直面する世界にとってひとつの光になるのではないかと思います。
元気鶏若鶏モモ肉(マルイ食品)
抗生物質や合成抗菌剤に頼らない、鹿児島育ちの「南国元気鶏」。今関さんは「生協の鶏肉はドリップが出にくい」とお気に入り。