「ドレスのフリルみたい」「サラダが一気に華やかになる」と、組合員に人気の「滋賀のフリルレタス」。以前は「南出さんのフリルレタス」として親しまれてきました。2020年春、その生産者である南出農園の南出卓哉さんが仲間とともに株式会社アグテコ(以下アグテコ)を設立したのを機に、商品名を変更して供給しています。
フリルレタスは、葉を内側に巻き込まない非結球レタスで、1番の特長は華やかな葉先。シャキッと歯ごたえがよく、サラダやおかず、お弁当に添えるだけで見映えがすると人気です。
「滋賀ではよく知られていますが、全国的にはまだ珍しい品種なんですよ」と話すのは、アグテコの宮代昌明さん。以前は海外で都市開発に携わる仕事をしていましたが、「世界に通用する農業を」と野洲市で奮闘する農家の南出卓哉さんに出会い、意気投合。生産管理のエキスパートである木山守さんにも声をかけ、2017年に香港で株式会社アグテコを設立しました。
「香港に拠点を置いたのは、気温も湿度も高い環境だから。高温多湿は葉物野菜にとって1番の大敵。でも、その育ちにくい環境で研究を重ねることで、技術を向上させるねらいがありました」。夏場になると急にレタスの値段が上がったり、売り場から葉物野菜が消えたりするのはよくあること。宮代さんたちは、年間を通じて安定的に安い価格で葉物野菜を届けることが使命だと考えています。
見渡す限りの田園地帯に、突然巨大なビニールハウスが現れる野洲市吉川地区。アグテコファーム吉川では、甲子園球場よりも広い敷地を整備し、フリルレタスの水耕栽培を行っています。日本法人第一号としてこの地を選んだ理由は、鈴鹿山系の豊かな水源と太陽の光に恵まれ、南出さんが祖父の代から水耕栽培を営んできた土地だから。
ビニールハウスの内部には広大なプールがあり、フリルレタスの苗がパネルに乗ってプカプカと浮いています。苗が大きくなるにつれ端のほうに移動し、人の手で1株ずつ収穫するシステムです。30年以上もの間培ってきた南出さんのノウハウを元に、さらに進化させています。
「室温管理や力仕事などは機械まかせですが、大事なところは人の目と手が頼り。人工光も使いません」。たとえばLEDを照射して成長速度を速めると、30日程度で出荷できるレタスもありますが、アグテコファームでは太陽の光が命。じっくりと50日間、自然の光で光合成を促して栄養価を高めています。実際に人工光で育てたレタスと食べ比べても、太陽光で育てたレタスのほうがおいしいとか。
「水耕栽培のメリットは、雑菌の多い土を使わないので農薬が少なくて済むこと。室内栽培なので、1年中安定して出荷できます」と宮代さん。毎日レタスの顔色を見て「おかしいな」と思ったら早めの予防を心掛けているそう。農薬は天然由来のもので、成分が残留するものや発がん性の農薬は一切使用していません。
「野菜と人間は同じ。過保護にせず、きちんと会話する。ダメな時にはサポートしますが、なるべく自分で力をつけて育ってほしい」。そう語る宮代さんは、まさにお父さんの表情。最先端の技術を取り入れながら、「野菜を工業製品ではなく生きた食べ物として育てたい。そんな思いが根っこにあります。今後は海外展開も視野に入れ、さまざまな気象条件や土壌条件に合わせた栽培技術を開発していく予定です」そう語る3人の目は希望と情熱に輝いていました。
レタスは根元を切った途端に傷みやすくなる野菜。そのため、水を含ませたスポンジを使い、根付きのまま出荷するようにしています。日照時間や温度の影響で葉が大きくなり過ぎた場合は、袋に入りにくいので根元をカットしています。また、弊社では収穫後のフリルレタスを丸1日保冷庫で保管して滅菌を行います。雑菌の繁殖が傷みの原因になるからです。保存のコツは、なるべく早く冷蔵庫に入れること。吹き出し口の近くだと水分が飛んでしまうので、冷風が直接当たらないところに保管するようにしてください。
2050年に直面する食糧危機を見すえ「農業で世界を変えたい」と2017年に香港を拠点に設立。2020年に日本法人第1号としてアグテコファーム吉川を開業。