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つくる現場から
ごり煮

秘伝のたれで味わう びわ湖の恵み秘伝のたれで味わう びわ湖の恵み

ごり煮

びわ湖の浅瀬で獲れた新鮮なゴリを先代譲りの秘伝のタレでじっくりと炊き上げた、古くから愛される近江の郷土料理です。

びわ湖に生息する湖魚を使った佃煮つくだには、滋賀県民のふるさとの味。中でもハゼ科の淡水魚である「ビワヨシノボリ」は、「ウロリ」「ゴリ」といった名称でも親しまれ、びわ湖の特徴的な魚介類8種で構成される「琵琶湖八珍」に認定されています。体長はちりめんじゃことほぼ同じ。独特の柔らかな食感が持ち味です。

滋賀県民ふるさとの味 ゴリ

炊き上げる前のゴリ。小さくても成魚です。

滋賀県下でも有数の、漁の地理的条件に恵まれた東近江市の能登川漁港。愛知川えちがわ大同川だいどうがわという大きな川に挟まれた入り組んだ地形は魚の産卵に最適な場所です。そこから車でわずか5分。湖魚の卸しや佃煮の製造などを営むのが魚常うおつね商店です。

「昭和36年に私の父が創業しましたが、江戸時代までさかのぼると、びわ湖の漁師の網元(網や船を所有し、漁師を雇って漁業を営む人)だったそうです」と田井中たいなか菊正きくまささん。創業当初は湖魚の卸しに専念していましたが、昭和40年代から佃煮や鮒ずしなど加工品の製造に力を入れるようになりました。

味の決め手は鮮度にあり

魚常商店代表 田井中 菊正さん、
池田 紀子さん

工場には、煮詰めたしょう油のいい香りが漂い、ピカピカに磨き上げられた蒸気釜が並びます。ガス釜より火力が高く、焦げつきにくいのが特長で、獲れたばかりの湖魚を、ここで炊いて佃煮にしています。

「ゴリは鮮度が命。小さく柔らかいので、わずかな時間でドロッと溶けたようになるんです」と、この日作業をしていた池田紀子さん。ゴリが獲れるのは、8月下旬から長くて11月上旬。水深10~20mの湖底の砂地に潜っているので、びわ湖では沖曳ちゅうびき網という独自の底引き網漁で水揚げします。

港から生きているうちに新鮮なゴリを運び入れ、四国産のしょう油と砂糖、それから照りとツヤを出すための水あめで味付け。酒もみりんも使用せず、材料は極めてシンプルです。

先代譲りの製法を守りぬく

「魚を炊いた煮汁を大切に保管し、そこにしょう油と砂糖を継ぎ足しながら使っています。いわゆる秘伝のタレですね」。湖魚を炊いた煮汁には、脂ののった魚のうま味がたっぷりと残っており、最高の調味料として、また佃煮に使います。しかも、魚の種類ごとに使い分け、それぞれの魚の風味を生かせるように工夫されています。

「製法はお店ごとに違いますが、うちでは昔から職人が釜に付きっきりでしっかりと炊き上げます」。湖魚の佃煮は、一般家庭では浅炊きされることが多く、サッと炊いてその日のうちに食べるのが習わしです。ですが、商品としては少しでも長く日持ちさせるのが大前提。炊き方の工夫はもちろん、色ツヤにもこだわります。

いつもの食卓に小さな贅沢を

「漁港で選別や金属検出も行いますが、小さな魚ほど目視が1番」と、最後は目を凝らし、ほかの魚や水草が混ざっていないかを入念に調べます。貴重な魚介にこれだけの手間をかけると知り、比較的高級珍味とされているのも納得しました。コープしがではほかにも「ごり山椒煮」や「えび豆」、「小鮎煮」、「すごもろこ煮」など多彩な商品を扱っています。自慢の「ごり煮」はしっかりとしょう油のきいた甘辛味で、魚の臭みはまるでなし。ふわっとした柔らかさの中に、プチプチした小魚の歯ざわりを感じます。白いご飯のお供はもちろん、お酒のアテにもぴったりです。

製造工程

およそ50年に渡って継ぎ足してきたしょう油ダレ

製造工程

炊き上がりのよし悪しは職人の勘と経験が頼り

製造工程

異物がないか目でチェック。根気のいる作業です

“湖魚”はびわ湖の宝物
湖魚について知ってほしい田井中さん

およそ400万年前に誕生したびわ湖は、世界的にも貴重な古代湖。10万年以上の歴史をもち、その場所にしか生息しない固有種が存在するのは、地球上で20ヵ所程度の湖です。びわ湖には1700種以上の水生動植物が生息し、そのうち60種類以上が固有種です。

「その一番の要因は環境です。たとえばニゴロブナを養殖池で育てても、最初の年の半分くらいは湖魚のニゴロブナになりますが、その翌年に孵化するのは一般的なギンブナ。びわ湖固有種で10cm程度のコアユも、びわ湖を離れて川を上れば普通のアユになるんです」と魚常商店の田井中さん。びわ湖の面積は約670km²、水深は最も深いところで104mもあり、この豊かな水環境が多様な湖魚を育んでいると田井中さんはおっしゃいます。

滋賀県には湖魚を使った郷土料理が多く、ニゴロブナを発酵させた鮒ずしを筆頭に、ビワマスを炊き込んだアメノイオご飯、スジエビと大豆を甘辛く炊いたエビ豆、小粒でふっくらしたセタシジミのしぐれ煮など、貴重な固有種もごちそうとして食卓に上ります。

近年では食育の観点から県内の学校給食でも湖魚を提供するようになり、一時期の湖魚食離れが解消されつつあるようです。とはいえ、外来魚の繁殖や漁業従事者の減少により、漁獲量が年々減ってきているのも事実。現在は、コアユの産卵場を確保するため人工河川を整備したり、外敵の少ない田んぼにニゴロブナの稚魚を放流したりと、さまざまな取り組みで湖魚を保全しています。

魚常うおつね商店

湖魚の卸しや佃煮・鮒ずしの製造販売、湖魚の冷凍製品などを販売しています。

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