コープしがの「産直 鳥取こめ育ち牛」は、そのおいしさはもちろん、様々な畜産業界の問題を解消するため、循環型農業に取り組んでいることでも注目されています。今回は、その仕組みやこだわり、「鳥取県の牛肉なのに産直」である理由についてご紹介します。
鳥取県は知る人ぞ知る肉牛の聖地。1966年の「第1回全国和牛能力共進会」(5年に1度開催される和牛の品評会)で、鳥取県産「気高」号が日本一を獲得。以来、9千頭以上の子孫を残し、今や全国各地のブランド牛の始祖として和牛界に名を残しています。(鳥取県ウェブサイトより)
1980年には地域の酪農家らが集まって専門農協を設立。乳牛・肉牛の生産から加工・販売までを一手に請け負う現在の鳥取県畜産農業協同組合、通称「とりちく」が誕生しました。
「牛を育てる農家にとって、最も頭を悩ませるのが飼料代。コストのかかる輸入飼料をなるべく控え、国産飼料にこだわったのが産直こめ育ち牛の始まりです」と、鳥取県畜産農協 製造・販売グループの佐々木 茂さん。
牛は、人間の主食にあたる牧草(粗飼料)とおかずにあたる穀物(濃厚飼料)を食べて育ちます。とりわけ穀物はそのほとんどを海外からの輸入に頼り、国際相場の変動で価格が高騰するなどの問題がありました。
「飼料が高ければ高いほど消費者の負担につながります。そこで思いついたのが、休耕田の活用です」。
一年を通じて湿度が高く、日照時間の短い鳥取県では、畑作よりも稲作が盛ん。ただ近年は国の減反政策(お米の値段が下がらないよう生産量を抑制する制度)や農家の高齢化などにより、放置された休耕田が増加の一途をたどっています。
とりちくでは、まず県内の稲作農家と協力し、休耕田で牛の飼料稲を育てることから始めました。飼料稲とは、まだ青いうちに刈り取った稲を乳酸発酵させたもの。輸入に頼る乾燥牧草の代替えとして使えます。
次に、作りすぎて余ったお米を飼料に転用できないかと考えました。そこでトウモロコシや麦などにお米を8%加えて配合したペレット(小さく固めた粒)を与えることにしました。
「実は、鳥取県産の飼料米が足りない年もある」と聞いた当時のコープしが職員が、滋賀県高島市の生産者グループを紹介したことから、一部高島市産の飼料米も使用しています。滋賀のお米がお肉になって戻ってくる、というイメージです。
肉牛には、大きく分けて3つの種類があります。近江牛など日本固有の和牛、和牛と乳牛をかけ合わせた交雑種(F1)、そして乳牛のオスです。
産直鳥取こめ育ち牛は、国産牛として最も一般的な乳牛のオス、ホルスタイン種の去勢牛です。主に「生協牛乳120」の原乳を生産する母牛から生まれた仔牛で、約20ヵ月かけてじっくりと愛情たっぷりに育てます。
和牛に比べてサシの少ないホルスタイン種の去勢牛は、あっさりとした味わいでかめばかむほどうま味がじわり。しかも、安全安価な国産飼料のおかげで、ヘルシーな牛肉を手ごろな価格で楽しめます。
そして何より注目すべきは、今ある資源を最大限に活用した循環型農業。休耕田で育てた稲・米を牛が食べ、牛の排せつ物がたい肥となってまた稲・米を育てます。やがて牛は牛乳を生産し、食肉となって私たちの食卓へ。100年先まで見据えた食のかたちが産直鳥取こめ育ち牛なのです。
「とりちく」には、牛の赤ちゃんを丈夫に育てる2ヵ所の哺育センターと6ヵ所の肥育牧場があります。その中の1つ美歎牧場は標高300mの高台にあり、見渡す限りの大自然。立派な体格のホルスタイン肉牛は、驚くほど毛並みがツヤツヤです。「牛はストレスにとても敏感。人間がピリピリしていると牛にも伝わるので、なるべく穏やかに接するよう心がけています」と肥育リーダーの鎌谷耕士さん。彼らの細やかな気配りが、産直鳥取こめ育ち牛の品質を支えています。
こめ育ち牛などの牛バラ肉使用。牛肉のうま味、玉ネギの甘さが特徴。滋賀県・遠藤醤油のうす口しょうゆでじっくりと煮込んでいます。2018年度コープしが商品開発検討委員会で、組合員と一緒に開発しました。