栄養価にすぐれたイワシは魚の中の優等生。でも、「生臭い」「小骨が多い」といったイメージで苦手な人も多いのでは…? そんな組合員の意識をがらりと変えたのが、発売以来38年のロングセラーを誇る「とれとれいわし たたき身」です。
鳥取県の最西端。三方を海に囲まれて、全国屈指の豊かな漁場に恵まれた境港。
この地で水産加工業を営む株式会社 大新(以下、大新)では、昭和57(1982)年より「とれとれいわし たたき身」の製造を行っています。
「境港では、昔からイワシがよく獲れました。ただ、当時のイワシの評価は低く、主に養殖魚のエサにされていました」と話すのは、大新 食品部の井上晃司さん。
カルシウムやビタミンなどの栄養分を豊富に含み、ほかの魚の主食としても海の生態系を支えるイワシはまたの名を“海の米”。さらには脳の働きをよくするというDHA、血管や血液の健康維持に欠かせないEPAなど、人にとっても有用な成分をバランスよく含んでいます。
「こんなに新鮮で栄養価の高いイワシを全国の組合員にも食べてほしい」。そう考えた同社では、水揚げされたばかりの生のイワシを工場へ運び、三枚おろしや骨抜き不要のたたき身として商品化することにしました。
「『とれとれいわし たたき身』は添加物を一切使わず、原材料はイワシだけ。ごまかしがききませんから、買い付けにはとくに神経を使います」と井上さん。境港の市場では20年以上のキャリアをもつベテランの買い付け人が、サイズや状態を見極めています。
「他府県の漁港では、信頼のおける業者さんに買い付けをお願いしています。この業界では“イワシの大新”で通るほど、当社はイワシにうるさいことで有名。業者さんもそれを分かってくれています」。
遠隔地の漁港であれば、陸路で丸1日かけて本社工場まで運びます。氷水の入ったタンクに生のイワシを詰め、冷凍は一切しません。手間とコストのかかる運搬方法ともいえますが、なぜこれほどまでに生の国産イワシにこだわるのでしょうか。
「今から20年くらい前のこと。境港のイワシが記録的な不漁となり、やむを得ず外国産の冷凍イワシを使ったことがありました。すると、いつもご利用いただいている組合員さんから『いつもと違う』という声が寄せられたのです」。
そこで当時の宮本英紀社長(現会長)は、「県外産でもいい。とにかく生で加工できる新鮮なイワシを全国から集めるように」と大号令をかけました。組合員の声を大切にする大新だからこそのこだわりです。
魚へんに弱いと書くように、イワシはとてもデリケートな魚。水揚げされて空気に触れたとたんに劣化がはじまるため、加工するにもスピーディかつ丁寧に扱わなければなりません。
コンベアで工場内に運ばれたイワシは、ドレスマシンとよばれる機械で頭と内臓を除去します。次に採肉機に通して粗いミンチ状のたたき身にします。 すり身と違って、この後「練り」工程がないので、ツブツブとした肉粒感があり、多少の小骨も混ざっています。
「小骨が気になる人には、調理前に包丁で刻むことをおすすめしています。しかしここ近年、骨に対するクレームはほぼゼロです」。
採肉後のたたき身は、すみやかに真空パックされ、マイナス35度の冷風で急速冷凍されます。ここまでの所要時間は約50分。“新鮮なイワシを新鮮なうちに”がコンセプトの商品ですから、採肉後の工程もスピードが命です。
「最初は『ニガテだから』と嫌な顔をする人も食べるとびっくりされますね。イワシの臭みがほとんどないので(笑)」と井上さん。
境港市内の保育園や小学校では、子どもたちの給食にも活用されている「とれとれいわし たたき身」。ハンバーグやつみれ汁、ドライカレーや春巻きなど、お肉のミンチ感覚で青魚の栄養を丸ごと味わってみてください。
イワシやアジ、カニ、マグロなど、全国有数の水揚げ量を誇る鳥取県境港市で、昭和47(1972)年に創業。厳しい目で選んだ水産物を新鮮なうちに短時間で加工するのが得意。姉妹品の「とれとれあじ たたき身」も人気。