一般的に日本国内で流通している鶏肉は、ブロイラー・銘柄鶏・地鶏の大きく3種類に分けられます。でも、その違いってなんだかよくわからない…ちょっとモヤモヤしてしまいます。
大きく分けると、ブロイラーは40~50日の短期で急激に成長させた肉用鶏で、いわゆる〝若鶏〟といわれるもの。一方で地鶏は、日本の在来種の血統を50%以上受け継いで、80日以上の間、1平米あたり10羽以下で飼育するなどの条件を設けているのが特徴です。
そして銘柄鶏とは、基本的にはブロイラーと同じ肉用鶏で、飼育日数や飼育環境に工夫を加えて育てたもの。コープの産直近江鶏は、この銘柄鶏に相当します。
里山の豊かな自然に囲まれた滋賀県甲賀市に産直近江鶏を生産する株式会社シガポートリーの本社兼加工場があります。出迎えてくれたのは、工場長兼総農場長の山田昭和さんと営業部の蜂須賀聖人さん。早速、産直近江鶏を飼育する日野農場へ案内していただきました。
人里から遠ざかり、山道をどんどん進むと森の中に巨大な鶏舎が現れます。その数、10棟。1棟につき約4000羽の産直近江鶏が飼育されています。鶏舎に近づくと、ピィピィと元気な声が。フワフワの羽毛に包まれた、つぶらな瞳のヒナたちがいました。
「ヒナはまだ体が弱いので、スタッフが泊まり込みで温度管理をしています」と山田さん。近年では機械化が進む養鶏場が多い中、シガポートリーでは昔から人の目と手をかけて育てています。「命ある生きもの」を扱う仕事だからこそ、真心のこもった管理が必要だと考えています。
「鶏には汗腺がなく、体温調節ができません。最近の夏の異常な暑さは熱死のリスクに繋がります。また冬の寒さも鶏には大敵。鶏舎の温度が15度以下にならないよう、細心の注意を払います」。しかし、窓を閉めきったままだと、鶏が酸欠に陥って体調を崩すこともあるそうで、真冬の鶏舎の温度管理は気の抜けない仕事です。
しかし、意外といってはなんですが、鶏舎の中はゆったり広々。ホコリや臭いがほとんどなく、自然の光と風を感じます。「私たちの飼育法は、平飼いの開放鶏舎。鶏は明るく自然に近い環境で活発に動きます。運動量が多い鶏ほど健康だといえますね」と蜂須賀さん。通常のブロイラーは1坪当たり60~70羽ですが産直近江鶏は1坪平均30~35羽の割合と、地鶏の飼育環境とほぼ同等の広さの中で伸び伸びと育ちます。
ちなみに飼料は安全性に配慮して抗生物質を使用していません。トウモロコシを主体に大麦を使用する独自の配合です。「長年の研究で、大麦を投入すると脂質が少なく、あっさりとした肉質になることが分かりました」と山田さん。
こうしてじっくり手塩にかけられた産直近江鶏は、平均55日飼育され同社の加工場へと運ばれます。愛らしいヒナの姿を見ただけになんだか切ない気分ですが、これが命をいただくということ。首を切って放血した後、脱毛・解体作業へと移ります。
まず、モモから脚と胴体を切り離し、手羽やささみ、ムネなどの細かい部位に切り分けます。熟練したスタッフの手さばきは正確でスピーディ。あっという間にきれいにさばかれていきます。「当社の強みは生産から処理まで一貫して行えること。自社のスタッフの目を通じ、最初から最後まできちんと安全な鶏肉を提供しています」。見るからに弾力があり、健康的なピンク色。そんな近江鶏の肉質は、同社の尽力の賜物です。
人と鶏では当然、体のサイズが違います。人の目線からもっと低い位置を想定し、鶏の目線でものを考えること。毎日の気温やちょっとした環境の変化など、鶏の立場で思いやるようしています。(塩見さん)
鶏は意外に繊細な生きもの。少しホコリがたまっていたり、水が汚れていただけですぐに病気になってしまいます。とくにヒナはまだ体が小さいので、水の容器や餌箱の高さにまで気を配っています。(川村さん)