産直 本田さんのフルーツ人参(400g前後)
「生でもにんじん臭さを感じない」「ジュースでゴクゴク飲みたくなる」など、果実のようにすっきりした甘みが魅力の本田さんのフルーツ人参。コープしがでは2018年12月から産直提携をスタートし、安心安全な農法で適正価格による安定供給を、共に目指していこうとしています。
本田さんが経営する有限会社大自然ファームは、全国でも有数のにんじん産地である熊本県菊陽町で、2001年に設立されました。それまでは代々酪農を営んでいましたが、ウルグアイラウンドによる牛肉の輸入自由化など、様々な要因が積み重なって酪農から心機一転、畑作へ。
そもそも菊陽町は、阿蘇山の火山灰が堆積した黒ボク土の土壌に恵まれ、排水性が極めて高く、土中で育つ根菜類には理想的な土地でした。そこで本田さんは、ホクホクと柔らかな黒ボク土の特性を生かし、〝緑肥〟を使って土の元気を回復しながら持続可能な有機物循環農法に取り組んだのです。
「よく〝にんじん臭い〟っていわれるでしょ?あれはにんじんの臭いではなく、肥料の臭いなんです」と本田さん。
作物の成長に欠かせない肥料の三大要素は、窒素・リン酸・カリウムですが、にんじんがカリウムを過剰に吸収すると臭みが生じ、窒素を吸収し過ぎると苦みが生じてしまいます。
まず春にんじんを収穫後、土壌に残った余分な肥料を吸わせるために緑肥を植えます。50~70日で2m位になったら細かく切り刻みプラウという農機具で約50センチの深さまで鋤き込みます。太陽熱や空気と一緒に土に混ざった緑肥はやがて、にんじんと共存する根圏微生物のエサとなり、根圏微生物を活性化して病原菌からにんじんを守ってくれるのです。これで事前準備が完了し、冬人参の作付けが始まります。
肥料は人参に必要な量を綿密に計算し、有機肥料+無機肥料(化成肥料)を組み合わせ、更に微量要素のミネラル成分も投入します。
そして冬にんじんの収穫後は、畑の上層30センチをプラウで削り、さらにその下40センチの深さの土を表層まで持ってきます。これを天地返しといい、オセロのように地面の表と裏を入れ替えて、1つの畑で同じ作物を栽培し続けると発生する連作障害を防ぎます。
「緑肥は何でもいいんですよ。イネ科でもマメ科でもセリ科でも。ただし、対抗植物であることが条件」と本田さん。対抗植物とは、作物に有害な線虫の発育を阻害する植物のこと。大自然ファームではおよそ2mの高さに育つギニアグラスを栽培し、その酵素によってにんじんの大敵である〝根こぶ線虫〟を抑制しています。
このように緑肥を使えば、畑に残った余分な肥料を吸収し、土づくりに欠かせない微生物のエサとなり、さらに病害虫まで防いでくれます。よって殺虫剤や殺菌剤など農薬の使用が抑えられ、環境にもやさしいと、一石二鳥どころか一石五鳥を狙えるのです。
そんな有機物循環農法で栽培されるフルーツ人参は、甘みの強さが特長。さぞかし糖度が高いのかと思いきや、6.8~8度弱くらいだそうです。「糖度の高さ=おいしさではありません。それより臭みや苦みを抑えることが大切」と本田さん。ちなみに野菜の糖質には果糖としょ糖があり、フルーツ人参はすっきりした甘みを感じるしょ糖が多め。そのカギを握るのがミネラル分です。通常ph値の調整には石灰を使用しますが、本田さんはミネラルが水に溶けやすい卵の殻を使用。ph値の調整だけでなく、しょ糖を増やし、カルシウムも吸収させるのです。
また、にんじんの標準生育日数は120日ですが、現状の大部分は110日の早生。対して本田さんは7日以上の熟成期間をプラスし、最大160日かけて育てることで、にんじんの先端が丸くなり、βカロテンの含有量も増加。本田さんのフルーツ人参は、理想の野菜を追求した進化系といえるでしょう。
フカフカとしたこの土が、本田さんの宝物。粒の大きさがバラバラの団粒構造なので、土と土の間にできた大小の隙間に、球状や糸状など様々なかたちの微生物が棲みつきやすくなっています。
微生物が多様であるということは、あらゆる病原菌にも対抗できるということ。一昨年、熊本には珍しく積雪があった朝、本田さんの畑だけ雪が積もっていなかったそう。土の中に棲息する微生物の熱量が、雪を溶かしてしまったのだそうです。
にんじんの名産地・熊本県菊陽町。東に雄大な阿蘇山を望み、火山灰が堆積した黒ボク土で自然に寄り添った有機物循環農法を行っています。