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つくる人、たべる人
ブルームきゅうり

ブルームきゅうり

今号は株式会社ジェイラップ(でんでん倶楽部)が生産するブルームきゅうり。『スパイラル』では東日本大震災から2ヵ月経った2011年5月に取材をしています。2年経った今、被災産地の状況を伝えたい! と、再度取材に行ってきました。

安定したおいしさと安全性を追求

 生産者と消費者を繋ぐ農業集団・(株)ジェイラップ。この会社が提携する、福島県・茨城県・栃木県の生産者の集まりが「でんでん倶楽部」です。今回は、栃木県でブルームきゅうりを生産する9名の生産者の方にお話を聞きました。

 (株)ジェイラップは、“食味と安全性”の両立を目指し、栽培方法は生産者と協議して一定の基準を設定。栃木県の生産者が作るきゅうりが、みな同じ味になるよう、食味の統一を目指しています。農薬使用も慣行栽培(その土地で普通作られる栽培方法)の5割以下を目指されています。また、各圃場も土壌を分析して肥料をどの様に与えるかを設計し、与える肥料も統一されています。

 この地域では35年ほど前から、きゅうりが育てられています。現在の生産者は25名。栃木県は、冬の日照時間が全国でも3本の指に入るほど長く、きゅうりの栽培に適しているそうです。

被災地での生産の現状

 「被災地は、どこまでいっても、何をやってもあくまで被災地」と語る生産者の添野一美さん。“被災地のきゅうり”というだけで、避けてしまう人が少なくない風評被害の現状がそこにありました。

 東日本大震災以降、5割程度まで落ち込んだ出荷は、現在7割ほどまで回復したそうですが、まだ震災前とまではいかないようです。震災当日から2日ほど、停電の影響はあったものの、それ以外は地面が割れるなどの物理的な影響はなかったそうです。「実際は、きゅうりはハウス栽培なので影響はなかったのに。風評被害で、消費が伸びなかったことが一番こたえた」と、上野浩美さん。

 同時期に栃木県で栽培されたほうれん草が出荷停止になったと聞いた時は、農家を続けていくかどうか、悩んだそうです。「でも、コープしがをはじめ、理解してもらった上で発注してくれた取り引き先があります。だからこそ、消費者が買い続けてくれて、私たちの今があります」。

安全性を伝えるために

深井戸ポンプで地下40mの水をくみ上げています

 安全性を伝えるために何ができるか。生産者の方々は、きちんと計測して、安全性を科学的に証明し伝えていくことを徹底していました。

 消費者が一番気になる放射線については、日本の食品基準値よりも厳しいウクライナ基準(チェルノブイリ原発事故後に、ウクライナ保健省が出した基準)を採用。2台の放射線検知器を導入して、放射線を測っています。出荷物はもちろん、圃場土も堆肥も計測しています。欠かせない水についても「川水で作ると雑菌が多いからだめになる」と、とてもきれいな地下水が採用されています。

 圃場の土もきちんと放射線量を計測し、堆肥をハウスに入れる前にも放射線量を測ります。ハウス内に放射性物質を持ち込まないのが原則です。堆肥や土の放射線も計測し、不検出のものしか入れないよう徹底されていました。生産物も、出荷前にきちんと計測され、安全性が確認されたものしか出荷されません。

生産者の添野一美さんと、息子の克也さん。親子二代で「安全でおいしいきゅうり」を追究されていました

 このように、震災後から現在において、定期的に検査されていますが、震災直後を含め、ウクライナ基準を超える数値が出たことは一度もないそうです。「被災産地のイメージではなく、こういったことを冷静に受け止めてほしい」。これが、生産者の方々の切実な思いです。

こだわりは土作りから

各生産者が、堆肥作り専用の場所を設けて、最良の土を作ります

 安全性と同じように、こだわっているのが“土”。「土作りは毎年の積み重ね」だそうです。堆肥の中に、有機肥料を発酵させた“ぼかし肥料”を入れ、オリジナルの土を作っています。手を入れると、発酵して発熱し、60度くらいの温度で堆肥がつくられているのが分かります。それぞれの生産者が専用のスペースを用意して作るこだわりようです。肥料も、元肥(植物を植えつける前の土に、前もって与えておく肥料)を栃木の慣行栽培の3分の1くらいの量にし、成長の様子を見ながら最善のタイミングで与えています。この元肥が多いと苦味が出たりするので、微妙な調整をしながら、味の質を追究されているそうです。

そもそもブルームきゅうりって?

「ブルーム」にこだわっています

 「ブルームきゅうり」は、「ブルーム」が付いたきゅうりです。では、ブルームって、なんでしょう?

 ブルームとは、暑さ寒さの外因や、水分の蒸発を防いだり、老廃物を出したりするために、きゅうり自身が出す白い粉のことです。普通のきゅうりに、ちょっと白く粉をふいたようなきゅうりを見たことがありませんか? その白い粉がブルームです。よろいのような役割をしています。

 ところが約30年ほど前に、突然変異から生まれたと言われる、ブルームのないブルーム『レス』きゅうりが出てきました。

 「店頭に並べた時に見た目が美しく、皮が厚くて日持ちする。劣化がわかりにくい(わかりにくいだけで、劣化していないわけではない)」という理由でこちらが主流になり、今では市場の9割以上がブルームレスきゅうりになっています。でも、世の中が『レス』主流となった今でも、でんでん倶楽部の方々は『ブルームきゅうり』にこだわっておられてます。

 …なぜって? 理由は『おいしいきゅうりを作りたい』から!

 試しにブルームレスきゅうりを作られたこともあるそう。ですが、食べ比べたら歯ごたえが全然違ったということです。実際、食べればパリッと感が全然違います。果物でも、プラムやブルーベリー、巨峰などの皮が白っぽくなっている、あれがブルームです。巨峰などは、白くなっていないと、おいしくないとまで言われることもあるのに、きゅうりはきちんと知られていません。そのこだわりを応援したい! と思うとともに、きちんと知ることは大切、だとつくづく感じました。

最後に

(左から)若林さん、藤沼秀男さん、添野さん、鈴木さん、大島さん、大山さん、上野さん、藤沼孝司さん

 今回の取材で、強く伝わってきたのは「安全性は、検査の結果を見てもらえれば分かるはず。どうか、被災地産地というイメージだけで判断しないで」というメッセージ。ブルームレスきゅうりが主流の中、あえてブルームきゅうりにこだわり、「おいしいきゅうりを食べてもらいたい」という熱意を持って取り組んでおられます。

 現在栃木県でんでん倶楽部生産者9人の内、5人の方に20~30代の後継者がおられます。日本の農業の未来、私たちの食のためにも、正しく知り利用し続けることで応援していきたいと強く感じました。